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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)2347号 判決 1971年11月27日

原告 大川実

右訴訟代理人弁護士 高橋義一郎

同 伊沢英造

被告 島田茂

右訴訟代理人弁護士 佐々木正義

同 真木幸夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告は、原告に対し、別紙目録記載の土地について真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文第一、二項と同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  訴外福田栄吉は、別紙目録記載の土地(以下本件土地という)を所持していた。

(二)  原告は、福田栄吉から昭和二四年八月七日本件土地を買い受けた。

(三)  被告は、本件土地につき昭和四五年三月三一日受付第一五〇二〇号所有権移転登記を有している。

(四)  よって、原告は被告に対し、所有権に基づき本件土地について真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因(一)および(三)は認め、(二)は不知。

三  抗弁

(一)  福田栄吉は昭和二八年五月三一日死亡し、訴外福田はつが栄吉を相続した。

(二)  被告は、福田はつから昭和四五年三月三〇日本件土地を買い受けた。

四  抗弁に対する認否

全部認める。

五  再抗弁

福田はつから被告への本件土地の所有権移転登記は、福田栄吉の相続人である福田はつでは原告から先代との売買あるいは取得時効の援用をうけ勝算の見込がないため、福田はつ、同人の代理人黄徳淳および被告が共謀の上、被告において本件土地を買い受ける特段の事由もないのに、ただ地価の高騰による莫大な利益を獲得しようとして、なされたものであるから、被告は背信的悪意者に当たる。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因(一)の事実(福田栄吉が本件土地を所有していたこと)は、当事者間に争いがない。

二  請求原因(二)の事実(原告が福田栄吉から本件土地を買い受けたこと)について判断する。

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

原告は、昭和二二年福田栄吉から本件土地を賃借し、その地上に自己の居住用建物一棟を建て本件土地を占有使用していたところ、昭和二四年七月ごろ福田栄吉から本件土地の買い取りを申し込まれたので、代金三万円で買い受ける旨を約し、同年八月七日内金一万円、同月一五日内金二万円を支払った。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  抗弁(一)の事実(福田はつが福田栄吉を相続したこと)および抗弁(二)の事実(被告が福田はつから本件土地を買い受けたこと)は、当事者間に争いがない。

四(一)  そこで、再抗弁事実(被告が背信的悪意者であること)について判断する。

ところで、被告が背信的悪意者かどうかは原被告双方の諸々の事情を総合的に判断して決しなければならない。

(二)  まず、原告側の事情について判断する。

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

原告は、昭和二四年七月ごろ本件土地を買い受ける以前から本件土地上に自己の居住用建物一棟を有し、さらに昭和三二年に残地に居住用建物一棟を建築して、本件土地を買い受けてから二〇年以上にわたって本件土地を占有使用しており、現在は右二棟の建物を自己の経営する会社の社員の住宅として使っている。また、原告は、福田栄吉から本件土地を買い受けた際およびその後数回にわたり福田栄吉に本件土地の所有権移転登記をしてくれるよう頼んだところ、登記が福田栄吉名義になっていないためその申出に応じて貰えずにいたが、本件土地上に自己所有の建物を建てて自分が住んでいることおよび福田栄吉との個人的なあるいは仕事上の信頼関係から登記がなくても大丈夫と思い、登記を経ないまま今日に至っている。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  次に、被告側の事情について判断する。

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

福田はつは、昭和三〇年一二月八日本件土地について元所有者長瀬健太郎から直接所有権移転登記を経由しているが、他人まかせでいた為本件土地の詳しい事情を知らずにいたものであって、その後原告が本件土地を占有しながら地代を支払っていないことが判ったので、昭和四一年頃から所有不動産の整理を依頼していた不動産業者の黄徳淳に本件土地についての原告の占有権原を調査させたところ、原告は本件土地を栄吉から買受けたと主張しているが、原告呈示の資料によっても右売買の事実ははっきりしないということであったので、かねて家主に更新の度にいやがらせをされて困ると言っていた被告(はつの従姉妹の夫)に本件土地を売ることにより、いわば問題のある本件土地を手放そうと考えて、被告に売買の話をもちかけた。被告は、その居住建物の家主に三年ごとの期間更新の度に更新料や家賃値上の問題でいやがらせをされて困っていたところでもあり、福田はつが申し出た売買代金額も自分の考えていた半分位の三〇〇万円程度だったので、将来の生活のため本件土地を買うことにしたのであって(なお、被告が本件土地を買い受けた当時の本件土地の更地価格は坪二〇万円の割で計七四〇万円位であることは当事者間に争いがない)本件土地を買い受けるに際して土地の現状を調べ地上に建物がたっていることは承知していたが、建物所有者は地代を何十年も払わず土地を不法に占拠しているのだという福田はつの言を信じ、本件土地を買ったのである。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  以上(二)および(三)の事実関係のもとでは、被告が背信的悪意者であるということはできない。すなわち、原告は二〇年以上にわたって本件土地上に建物をたて本件土地を占有使用していること、原告に登記をえることができなかった事情があること等原告を保護すべき事情もあるが、被告も生活の必要から本件土地を購入したのであり、被告が福田はつと社会的存在として同一性があるとか、地価の高騰による利益をえるために福田はつと共謀して登記を移したとかの事実が認められない以上、被告を背信的悪意者であるということはできない。したがって、原告の再抗弁は理由がない。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中永司)

<以下省略>

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